会社設立は、司法書士に頼まず自分でできる?
※この記事は2026年11月4日現在の税法などの情報にもとづいています。
会社の設立は、司法書士に頼まなくても自分で手続きできます。ただ、当事務所では、費用をかけても司法書士に頼むことをお勧めしています。自分でやって浮くのは司法書士の報酬だけで、書類の不備ややり直しの手間は、自分で引き受けることになるからです。
もう一つ、手続きより気をつけたいのが、定款(会社の基本ルール)に書く中身です。資本金や決算日、株式の譲渡制限の決め方は、設立したあとの税金や手間に響きます。この記事では、自分で手続きする場合の進め方と、中身を決めるときに失敗しやすいところを、当事務所で実際にあった例とあわせてお伝えします。
自分でやると、司法書士の報酬(約8〜12万円)が浮きます
株式会社を設立するときに、国や公証役場に払うお金は約17〜20万円です。合同会社なら約6万円です。この金額は、司法書士に頼んでも自分でやっても変わりません。違いが出るのは司法書士の報酬で、相場は約8〜12万円です。自分で手続きすれば、この報酬はかかりません。
ただし、定款を紙でつくると、収入印紙4万円を貼る必要があります。電子定款(データでつくる定款)を使えば、自分で手続きする場合でもこの4万円は払わずに済みます。費用の内訳は「法人設立の費用は、全部でいくらかかる?」にまとめています。
頼むか自分でやるかは、「安心」と「費用」のどちらを取るかです
自分で手続きするかどうかは、約8〜12万円の報酬を払って安心を取るか、報酬を浮かせて手間と失敗のリスクを自分で引き受けるか、の選択です。当事務所は、安心を取ることをお勧めしています。間違えたときに出ていくお金と時間が、報酬より大きくなりやすいからです。
登記の書類に不備があると、法務局から直すよう連絡がきます。直せないときは申請を取り下げて出し直すことになり、設立日は出し直した日にずれます。設立日は登記を申請した日なので、契約の開始や許可の申請に合わせて日付を決めていた場合は、予定がくずれてしまいます。
事業目的(会社が行う事業を定款に書いたもの)の書き方にも注意がいります。医療・福祉サービスのように指定や許可が必要な事業では、定款の目的の書き方も審査で見られます。当事務所のお客様にも、目的の書き方が指定の申請に合わず、設立のあとに目的を変える登記をした方がいました。
当事務所は司法書士をご紹介していますが、紹介料はいただいていません。
自分で設立するときの手順は、4つです
手順は、司法書士に頼んでも自分でやっても同じです。
- 定款をつくる:会社名、本店の住所、事業目的、資本金、決算日などを決めて書きます。
- 公証役場で定款の認証を受ける:定款が正しい手続きでつくられたことを、公証人に証明してもらいます。合同会社は、この手順がいりません。
- 資本金を払い込む:会社をつくる人の個人の口座に、資本金を入金します。会社の口座は、設立したあとでないとつくれないためです。
- 法務局で設立の登記をする:本店の住所を受け持つ法務局に申請します。申請した日が、会社の設立日になります。
主な進め方は、紙・ネット・法人設立ワンストップサービスです
4つの手順の主な進め方は、次のとおりです。
| 紙で進める | ネットで進める | 法人設立ワンストップサービスで進める | |
|---|---|---|---|
| 定款をつくる | 紙に印刷して実印を押し、収入印紙4万円を貼る | PDFにして、マイナンバーカードで電子署名する | PDFにして、マイナンバーカードで電子署名する |
| 定款の認証 | 公証役場に行く | テレビ電話で受ける(予約は公証役場に直接) | マイナポータルから送る(テレビ電話の予約は公証役場に直接) |
| 資本金の払込み | どれも同じ | どれも同じ | どれも同じ |
| 設立の登記 | 法務局に持って行くか、郵送する | 法務省の「申請用総合ソフト」で申請する | マイナポータルから申請する |
| 用意するもの | 実印、印鑑証明書 | マイナンバーカード、カードリーダー(対応するスマートフォンでも可)、PDFに署名するソフト、申請用総合ソフト | マイナンバーカード、カードリーダー(対応するスマートフォンでも可)、PDFに署名するソフト。登記の申請書類をつくるときは申請用総合ソフトも |
法人設立ワンストップサービスは、国がマイナポータルで提供しているサービスで、利用は無料です(登録免許税などはかかります)。株式会社だけでなく、合同会社の設立登記も申請できます。定款の認証と設立の登記に加えて、設立後に出す税務署・都道府県・市町村への届出や、年金事務所への社会保険の届出も、まとめてネットで出せます。
ネットか法人設立ワンストップサービスで進める場合、マイナンバーカードがあれば個人の印鑑証明書はいりません。条件は、定款、役員の就任承諾書(役員を引き受けるという書類)、会社の印鑑の届出のすべてに、マイナンバーカードで電子署名してネットで出すことです。公証役場での定款の認証も、本人がテレビ電話で受けるか、顔写真つきの身分証明書を持って行けば、印鑑証明書がなくても本人確認ができます。紙の書類が1つでも混じると(紙の委任状で代理の人に頼む場合も含みます)、実印と印鑑証明書が必要になります。マイナンバーカードの署名用電子証明書が期限切れになっていないか、その暗証番号がわかるかも、先に確かめておきます。(出典:法務局「株式会社の設立登記をしたい方(オンライン申請)」、日本公証人連合会「電子公証を利用する手順を教えてください。」)
もう一つ、ネットで登記する場合、会社の印鑑の届出は出さなくてもよくなりました(2021年2月15日から)。ただし、届け出ていないと会社の印鑑証明書は発行されません。銀行の口座開設や事務所の賃貸契約で求められることがあるので、使う予定があれば、登記と一緒に届け出ておきます。(出典:法務省「印鑑の提出の任意化について」)
自分で決めると失敗しやすいのは、資本金・決算日・株式の譲渡制限です
司法書士に頼んでも自分でやっても、定款に書く中身を決めるのはお客様です。司法書士に頼めば、株式の譲渡制限や役員の任期といった法律の面は相談できます。ただ、資本金や決算日を税金の面から考えるのは、税理士の分野です。自分で手続きする場合は、これを全部ひとりで決めることになります。
当事務所では、設立前の打ち合わせで、資本金、インボイス登録をするかどうか、決算日、株式の譲渡制限と役員の任期を、この順番で決めています。資本金の額とインボイス登録をするかどうかで消費税が免除されるかが変わり、それによって決算日の考え方も変わるからです。
資本金
資本金は会社の元手で、設立したあとは会社のお金として事業に使えます。1円からでも設立できますが、金額は「当面のお金が足りるか」と「税金の区切り」の2つから考えます。
設立してから売上が入金されるまでに、家賃や社長の給料(役員報酬)、社会保険料などの支払いが先に来ます。医療・福祉サービスのように、報酬の入金がサービスを行った月の翌々月になる事業もあります。目安は、売上が入るまでの経費の数か月分に、設立費用を足した額です。月の経費が30万円なら、3〜6か月分の90〜180万円に設立費用の約20万円を足して、約110〜200万円になります。
当事務所のお客様にも、資本金100万円で設立したあと、売上が入金されるまでに諸費用がかかり、資本金ではまかなえなかった方がいました。足りない分は、社長個人のお金から約300万円を会社に貸し付ける形で補いました(「法人設立の費用は、全部でいくらかかる?」でご紹介した方です)。
社長から会社への貸付は、会社から返してもらうときに、所得税や住民税はかかりません。金融機関の審査でも、社長からの借入金は、資本金に近いものとして見られるのが通常です。資本金そのものをあとから増やすこともできますが、増資の登記が必要で、登記のときに国に納める税金(登録免許税)が最低3万円かかります。
税金の面では、資本金を1,000万円以上にすると、1期目から消費税の免除が受けられません(ちょうど1,000万円も含みます)。利益がなくてもかかる法人住民税の均等割も、資本金等の額(資本金に資本準備金などを足した額)が1,000万円を超えると上がります。標準の税率で年7万円から年18万円になります(自治体や従業者の数によって違います)。
株式会社で資本金が100万円未満なら、発起人(会社をつくる人)が個人で3人以下、取締役会を置かない、などの条件を満たすと、定款認証の手数料が1.5万円になります(通常は資本金に応じて3万〜5万円)。
決算日
決算日は、会社が自由に決められます。ただ、インボイス登録をせず、課税事業者(消費税を納める事業者)を選ぶ届出も出さない場合は、決算日によって消費税が免除される期間の長さが変わります。
資本金1,000万円未満で設立した会社は、このどちらもしなければ、原則として1期目と2期目の消費税が免除されます。1期目が長いほど、免除される期間も長くなります。1期目が最も長くなるのは、設立した月の前の月の末日を決算日にしたときです。10月に設立するなら、9月末です。
当事務所のお客様にも、決算日を深く考えずに決めたため、1期目が短くなった方がいました。10月に設立して7月を決算日にしたので、1期目は約10か月でした。9月を決算日にしていれば1期目は12か月になり、消費税が免除される期間は最長で約2か月長くなっていました。
2期目は、1期目の最初の6か月の売上と給与が、どちらも1,000万円を超えると免除されません。ひとり社長なら、最初の6か月に払った社長の給料の合計が1,000万円以下(月166万円まで)であれば、給与の基準で免除のままです。
インボイス登録をすると、登録を受けた日から課税事業者になり、それ以降は免除を受けられません。実際には、取引先から登録を求められることも多いのが実情です。設立した事業年度のうちに申請すれば、設立した日から登録を受けられる決まりはありますが、1期目の終わり近くになって取引先に登録番号を知らせるのでは遅すぎます。登録するかどうかは、決算日を決める前の、設立の準備の段階で決めておきます。
決算と税金の申告・納付の期限は、原則として決算日の翌日から2か月以内です。本業の忙しい時期や、大きな支払いがある月と重ならないようにします。
株式の譲渡制限と役員の任期
株式の譲渡制限は、「株式を売ったり譲ったりするときは、会社の承認がいる」という定款のルールです。小さな会社のほとんどが、この定めを置いています。
この定めがない会社は、法律上「公開会社」になります。上場しているかどうかとは関係ありません。公開会社は取締役会を置く必要があり、取締役が3人以上、原則として監査役も必要です。譲渡制限を付けないと、取締役が社長ひとりの会社にはできません。
譲渡制限を付けた会社は、取締役の任期を最長10年まで延ばせます。同じ人が続ける場合でも、任期が来るたびに登記が必要で、登録免許税が1回1万円かかります(資本金1億円以下の場合)。任期を10年にすれば登記の回数は減りますが、そのぶん忘れやすくなります。登記を忘れると、代表者に100万円以下の過料が科されることがあります。最後の登記から12年たつと、解散したものとみなされることもあります。ひとり社長なら10年にすることが多いですが、任期が終わる時期は記録しておきます。
合同会社には役員の任期がないので、この登記はいりません(くわしくは「株式会社と合同会社、設立するならどちら?」)。
参考にした資料
- 法務局「株式会社の設立登記をしたい方(オンライン申請)」
- 法務省「印鑑の提出の任意化について」
- マイナポータル「法人設立ワンストップサービス よくある質問」
- 日本公証人連合会「電子公証を利用する手順を教えてください。」「定款認証にどのような書類が必要ですか。」
- 日本公証人連合会「定款認証の手数料」(公証人手数料令35条)
- 指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(令和2年法務省令第36号による改正。テレビ電話による定款の認証)
- 印紙税法 別表第一 第6号(定款)
- 登録免許税法 別表第一 第24号(株式会社の設立・増資・役員の変更)
- 日本司法書士会連合会「報酬アンケート」
- 国税庁 タックスアンサー No.6503「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
- 国税庁「新たに設立した法人等の特定期間」
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(新たに設立した法人の登録時期の特例)
- 消費税法9条・9条の2・12条の2、消費税法施行令70条の4、平成28年改正法附則44条4項
- 地方税法52条・312条(法人住民税の均等割)
- 会社法2条5号・49条・107条・326条・327条・331条・332条・472条・579条・976条(e-Gov法令検索)