親族外承継を成功させるための財務設計。MBO/EBOにおける資金調達と株式集約の要諦

「親族に後継者がいないが、外部に売却するのではなく、長年支えてくれた役員や従業員に会社を継がせたい」――。いわゆるMBO(マネジメント・バイアウト)やEBO(エンプロイー・バイアウト)による事業承継は、組織の継続性や理念の維持という観点で非常に優れた選択肢です。しかし、最大の壁となるのは「後継候補者の個人資金の不足」と、経営権を安定させるための「株式集約」です。本記事では、親族外承継を確実に完遂するための財務スキームを解説します。

目次

  1. 親族外承継の増加:なぜ今、MBO/EBOが注目されるのか
  2. データで見る、第三者承継における資金調達のハードルと成功率
  3. 後継者の個人負担を最小化する「持株会社」スキームの活用
  4. 現経営者のリタイア資金と自社株評価のバランス調整
  5. まとめ:承継は「情」だけでなく「ファイナンス」で成立させる

親族外承継の増加:なぜ今、MBO/EBOが注目されるのか

かつての中小企業の事業承継は、親族内承継が9割以上を占めていました。しかし、少子高齢化や職業観の多様化により、その割合は年々低下しています。そこで注目されているのが、自社の業務を熟知し、従業員からの信頼も厚い役員や従業員への承継です。第三者へのM&Aとは異なり、組織文化の急激な変化による離職リスクを抑えられ、スムーズなPMI(ポスト・マージ・インテグレーション)が可能となる点が最大のメリットです。

「株式」と「経営権」の一致という課題

MBOを成功させるには、代表権の移譲だけでなく、株式を後継者に集約させなければなりません。株式が分散したままでは、重要事項の決議が阻害されるだけでなく、将来的に再び承継が必要になった際のコストを増大させます。しかし、数百万円から数億円にのぼる自社株を、一従業員や役員が個人資金で購入することは現実的ではありません。ここに高度な財務設計の必要性が生じます。

データで見る、第三者承継における資金調達のハードルと成功率

親族外承継において、どのような要因が承継を阻んでいるのか。公的な調査データがその実態を浮き彫りにしています。

(出典:中小企業庁『中小企業白書』、日本政策金融公庫『事業承継に関する実態調査』)
親族外承継を検討している経営者のうち、約半数が「後継者の資金調達」を最大の懸念事項として挙げています。また、承継が頓挫した理由として、「自社株の買い取り資金を後継者が用意できなかった」ことがトップにランクインしています。その一方で、金融機関の積極的な事業承継融資や、経営者保証のガイドライン運用改善により、適切な事業計画がある場合には「後継者本人に資産がなくても、会社側の信用で承継資金を調達できる仕組み」が整いつつあることも示されています。

後継者の「覚悟」と「与信」

かつては個人保証が必須でしたが、現在は一定の要件(財務制限条項の遵守など)を満たせば、個人保証なしで多額の買収資金を調達することが可能です。ただし、そのためには客観的な計数計画に基づく「返済能力の証明」が不可欠であり、財務諸表の透明性が強く求められます。

後継者の個人負担を最小化する「持株会社」スキームの活用

実務上、MBOを支援する最も一般的な手法が、持株会社(受け皿会社)を設立し、そこに買収資金を借入させるスキームです。

公認会計士・税理士からの視点

MBOで重要なのは「後継者に借金を負わせる」のではなく「事業のキャッシュフローに借金を負わせる」という発想です。後継者が設立した新会社(SPC)が現経営者から株式を買い取り、その後、事業会社とSPCを合併させる。これにより、事業会社が生み出す利益を原資として借入金を返済していくことが可能になります。このスキームにより、後継者は数千万円の株式を、自身の少額の出資だけで集約できるようになります。

現経営者のリタイア資金と自社株評価のバランス調整

親族外承継では、現経営者が「正当な対価」を受け取れるかどうかも重要なポイントです。一方で、株価が高すぎると後継者の財務負担が重くなり、低すぎると贈与税などの税務リスクが発生します。

退職金と株価の「セット」で考える

現経営者に多額の「役員退職金」を支給することで、法人の純資産額を一時的に減少させ、自社株の評価額を下げる手法が有効です。現経営者は退職金として手元資金を確保でき、後継者は安くなった株価で株式を買い取れる。この三方よしの財務設計こそが、MBOをスムーズに進めるための潤滑油となります。公認会計士の視点からは、退職金の損金算入限度額と株価下落幅を綿密に計算し、最適な支給タイミングを計る必要があります。

まとめ:承継は「情」だけでなく「ファイナンス」で成立させる

従業員への事業承継は、非常に夢のある選択肢です。しかし、そこには多額の資金移動と高度な税務判断が伴います。「頑張っているから継がせてやりたい」という経営者の情熱を、現実のものにするのは緻密な財務スキームです。持株会社の活用や退職金スキームを組み合わせ、後継者の負担を抑えつつ、現経営者のリタイア資金を最大化する。こうした論理的な解決策を提示することが、次世代へのバトンタッチを成功させる唯一の道となります。未来を託す後継者のために、今から「数字の土台」を整えていきましょう。

北島 征爾(きたじま せいや)

公認会計士(第32953号)・税理士(第147219号)
住友電気工業株式会社、有限責任監査法人トーマツを経て、2021年にモノリス会計事務所を開業。日本公認会計士協会 兵庫会・近畿税理士会所属。

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